第3話:契約という決断
はじめて家を建てる!第3話 ――その一行に、三十五年分の覚悟が詰まっていた―― 実施設計が進み、 図面の線がどんどん太く、具体的になっていくにつれて、 同時に別のものも、はっきりと形を持ち始めた。 見積書の数字。 これまでは、 「だいたいこのくらいです」 「概算ではこの範囲ですね」 そんな曖昧な言い方だった。 でも、...
はじめて家を建てる!第3話 ――その一行に、三十五年分の覚悟が詰まっていた―― 実施設計が進み、 図面の線がどんどん太く、具体的になっていくにつれて、 同時に別のものも、はっきりと形を持ち始めた。 見積書の数字。 これまでは、 「だいたいこのくらいです」 「概算ではこの範囲ですね」 そんな曖昧な言い方だった。 でも、実施設計が進むと、そうはいかない。 一円単位の数字が並び、 そこにはもう「夢」や「イメージ」は存在しない。 数字が語る現実 見積書をテーブルに広げた夜。 私はしばらく、黙って数字を眺めていた。 建物本体工事費。 付帯工事。 諸経費。 消費税。 合計金額を見て、 一度、深く息を吐いた。 「……これが、現実か」 頭の中では何度も想定していたはずなのに、 紙の上に印字された数字は、 想像以上に重かった。 「削れますか?」の連続 私は、遠慮なく質問した。 この仕様、もう少し抑えられませんか これは将来工事に回せませんか 本当に必要ですか 正直、少し恥ずかしさもあった。 でも、ここで聞かなければ、 一生聞けない気がした。 担当者は、 一つひとつ丁寧に答えてくれた。 「ここは削れますが、将来的に後悔しやすいです」 「これは今やった方が、結果的に安くなります」 そのやり取りの中で、 私は少しずつ理解し始めた。 家づくりは、“安くする”か“高くする”かではなく、 “納得できるかどうか”なのだ。 工事請負契約という分厚い壁 そして、 ついにその日が来た。 工事請負契約。 テーブルの上に置かれた契約書は、 想像以上に分厚かった。 何十ページもあるその束を見た瞬間、 心配性の私は、条件反射のように思った。 「全部、理解できるわけがない」 赤ペンを握る 私は赤ペンを手に取り、 一行ずつ、ゆっくりと読み始めた。 工期 支払い条件 瑕疵担保責任 契約解除 遅延時の対応 専門用語が多く、 正直、頭が追いつかない部分もある。 それでも、 「わからないままサインする」 という選択肢だけは、取りたくなかった。 気になる箇所には、 片っ端から赤い印をつけた。 担当者は、 「全部、説明しますよ」...