第六話【最終話】永田町ブレンド
第六話【最終話】永田町ブレンド 朝の空気は、よく晴れている日に限って容赦がない。 透明で、逃げ場がなくて、少しだけ人を試す。 その日、コーヒー党は公開討論会に臨んでいた。 テーマは、休むことの政治の延長線にある。 働き方改革の次に必要な制度は何か。 現場の善意と根性に頼らない社会設計は可能か。 休憩、子ども、ケア、そ...
第六話【最終話】永田町ブレンド 朝の空気は、よく晴れている日に限って容赦がない。 透明で、逃げ場がなくて、少しだけ人を試す。 その日、コーヒー党は公開討論会に臨んでいた。 テーマは、休むことの政治の延長線にある。 働き方改革の次に必要な制度は何か。 現場の善意と根性に頼らない社会設計は可能か。 休憩、子ども、ケア、そして壊れる前に拾う仕組み。 討論会の会場は、会見場よりも静かで、その分だけ残酷だった。 笑いは少ない。 拍手も、野次も、必要な時しか起きない。 その代わり、一つの言葉の温度が、そのまま測定される。 私は黒郎の隣にいた。 いつもの位置だ。 けれど、いつもと同じではなかった。 まだ完全に整理されてはいない。 だが、少なくとも無秩序には崩れなくなっていた。 目の前にある現実と、奥に残っている過去を、別々の引き出しに入れたまま保てる。 それだけで、以前の私からすれば十分な進歩だった。 黒郎がマイクを引き寄せる。 今日は原稿を持っている。 持ってはいるが、守るかどうかはまた別の話だ。 「本日は、休むことをめぐる制度の話をします」 会場が静まる。 「休憩は、気分の問題じゃない。 生産性だけの問題でもない。 人が壊れる前に拾えるかどうか、その国の設計の問題です」 滑り出しは悪くない。 前より、言葉の置き方がうまくなっている。 熱はある。 だが、すぐには沸騰しない。 相手側のパネリストは、既存政党の中堅議員、経済評論家、労務の専門家。 一見して穏やかな顔ぶれだ。 だが、こういう場で一番厄介なのは、怒鳴る人間ではない。 穏やかにもっともらしいことを言う人間だ。 「休むことの必要性そのものは否定しません」 最初に切り込んだのは、与党系の議員だった。 「ですが、制度だけを積み上げても、現場は回りません。 柔軟性というものがある。 一律の管理を強めれば、かえって現場は窮屈になる」 評論家が続ける。 「コーヒー党の提言は美しい。 しかし、現実の運用責任をやや軽く見ている印象がありますね。 理想論で現場を縛れば、結局は別の歪みを生むのではないですか」 言い方が上手い。 正面から否定し...